会社の形態の選択について

1.会社の形態

株式会社と合同会社


 法人化する場合は株式会社が一般的です。

ほとんどの場合は株式会社をおすすめしていますが、合同会社が選択肢として考えられる場合があります。

株式会社と比べた場合、合同会社は認知度がやや低く、税法上も特にメリットはありません(基本的には株式会社と同じ)が、内部機関や運営手続が比較的簡素化されており、設立費用も抑えられます。

 なお、合名会社、合資会社はメリットが限られ、有限責任事業組合は永続的な事業には向かず、課税関係も特殊になりますので、ここでは検討しません。  

2.合同会社のメリット

それでは、合同会社が選択肢に入るのはどんな場合でしょうか。

合同会社のメリットを以下にあげました。
区   分 株式会社 合同会社
役員の任期 10年以内 なし
設立時の法定費用 24万(原則) 10万(原則)
配当の分配比率 株数(出資額)による 自由に定められる
決算公告 必要 不要
①役員の任期がない

 株式会社は定期的に役員変更登記が必要です。

もちろん本当に変える必要はないのですが重任でもその旨の登記が必要です。

そのたびに印紙代1万円と、専門家に頼んだ場合2~3万の手数料がとられます(自分でやると面倒で、不備があると補正(修正)のために法務局に呼び出されることも多いです)。忘れていると罰金がかかることがあります。

 株式会社の役員の任期はかつて2年(取締役の場合)でしたが、平成18年以降は定款に定めれば10年に延ばすことができるようになりました。

これで、株式会社も大分負担が減ったのですが、任期を長く(例えば10年に)した場合、登記を(例えば2年間)忘れていて、12年間何の登記もしないでいると、みなし解散という処分が行われる場合があります。

 合同会社では、株式会社とは違いこういった面倒や心配とは無縁です。

 また「役員変更登記」の話をしていますが、株式会社は当然その前提として「役員変更(改選)」自体も必要ですので、合同会社の方が手続が楽で、議事録もシンプルになります。

②設立時の費用が安い

 株式会社では定款に公証人の認証が必要ですが、合同会社ではこれがないため5万円安くなります。

また、設立登記の時の登録免許税が株式会社では15万円に対し、合同会社では6万円ですので、ここでも9万円安くなり、都合14万円安くなります。

③決算公告が不要

 実際に行っている中小企業は少ないですが、株式会社には決算公告の義務があります。

一般的な官報に掲載する方法ですと、決算公告の度に6万円程度の費用がかかります

 →自社サイト等に載せれば無料ですが、5年間載せ続けなければなりません。

合同会社ではこの義務がないので、堂々と決算公告をしないでいることができます。ただしこれと裏返しのデメリットもあります(後述)。

④配当の分配が自由

 株式会社の配当は株数に応じて割り当てられますが、合同会社ではこの配分を自由に定款で定めて行うことができます。例えばお金がある人と能力やアイディアがある人がいた場合に、お金がある人が多く出資するけれど、配当は折半という形もとれます。ただし、中小企業、特に零細企業では主に税務上の理由から配当をしない会社が多く、その場合にはあまり関係ないかもしれません。

【番外】

・珍しい 
 何かあると「何故合同会社なの?合同会社って何?」と聞かれる可能性が高いです。上手い答えを用意しておけばメリットにつながってくるかもしれません。

・英語ではLLCという表記になる

 日本版LLCとして導入された新しい会社形態なので、名刺にLLCと英語表記しておくと何となく先進的で格好良いと思う人も、稀にはいるかもしれません。

合同会社と漢字表記するとその感じが無くなり、どちらかと言えば怪しそうに見えるのが難点です。

・株式会社に組織変更可能

 合同会社は株式会社に組織変更することが可能です。

メリットとして挙げてみたのですが、そもそも株式会社にすることを予定しているのであれば、組織変更に手間や費用がかかるので最初から株式会社にすることをおすすめします。

もし組織変更するときは挨拶状に「大きい取引先も増えてきたので」などと理由書いて商売の順調さをアピールできるかもしれません。

・運営が楽

 ①、②、③と合わせたところで、「運営コスト(手間、金銭)が少ない」とまとめても良いかもしれません。

株式会社では株主総会や取締役会の運営などに関する細かい規定がありますが、合同会社では会社組織をシンプルにして、運営手続きも簡素にすることができます。

ただし、株式会社でも一人株主&役員で、運営も手を抜いている会社が多々あり、その場合では大差は無いかもしれません。

【余談】
・ユニバーサルミュージック、シスコシステムズの日本法人、IHG・ANAホテルズグループジャパン、P&Gマックスファクターなどが合同会社です。

既に有名でいまさら対外的な信用の問題もないためでしょうか。

また、全て外資絡みの会社でもあり、外国人の方がLLC(合同会社)という会社形態にも馴れているのでしょう。

ちなみに大企業の場合のメリットはは経営判断の迅速化や、配当設計の自由度を重視しての判断ということになりそうです。

GO TOP

3.合同会社にするデメリット



イコール株式会社にするメリットでもあります。

上記のように合同会社にするメリットは確実にありますが、一般的には株式会社形態の方が圧倒的に多く選ばれています。

①社会的認知度が低い

 小規模の合同会社設立を考えている場合、少なくとも現在では最大のデメリットだと思います。

 以前と違い、現在では株式会社も資本金1円で設立することができますので(かつては資本金1,000万円が必要でした)、理論的には株式会社か合同会社かで資力を判断することはできません。

 また、大規模な合同会社も稀には存在します。ですので、合同会社だからと言って偏見を持つのはあまり理由が無いことですが、実際にはまだ合同会社は一般的に馴染みが無く、警戒されても無理の無いところです。

 初めて取引をする得意先は、商品やサービスの質に対して、また、商品がちゃんと届くかどうか、株式会社の場合より少し警戒される場合があるかもしれません。

 同様に、仕入先からはちゃんと代金が回収できるか、金融機関からはちゃんと返済してもらえるか、就職希望者からはすぐに倒産しないかなど、各方面から心配されやすくなると思われます。

また、場合によっては「何という会社と何という会社が合同しているんですか?」などと聞かれないとも限りません。

 節税目的で外部と取引しない会社や、もともと有名な看板がある会社、有名な人間がいる会社などでは、この点は問題となりにくいかもしれません。

 また、株式会社にしたからといって確固たる「信用」がはじめから、もれなくついてくるわけでもありません。

 商売上「かっこつけ」が必要な場合には、株式会社にするだけではなく、事務所の立地、取締役数、代表電話やフリーダイヤル、会社のロゴマークなども考慮し、「それなりの会社になるため」に「それなりの装備」をはじめから行うことになるのではないでしょうか。

②意思決定について対立が生じると、収拾が難しい(社員が複数の場合)

 株式会社の場合は原則出資した株数に応じて議決権が与えられますので、過半数(51%)の株を持っていれば普通決議事項(取締役の選任・解任、監査役の選任、取締役・監査役の報酬決定など)が単独で決定でき、3分の2超の株を持っていれば特別決議もできますので、定款変更でも解散でも、単独で決定ができることになります。

 これに対して合同会社の場合には出資金額に関わらず、社員1人につき1票の議決権を持つことになります。

過半数の議決が必要な場合は、社員が2名ですと2人とも賛成しなければ何も決議できません。特別決議に至っては全員の賛成が無いと何も決議できません。

 したがって、合同会社の社員の決定は相当に慎重に行う必要があります。

【番外】

・債権者の計算書類閲覧権

 公告の義務が無い代わりに債権者に計算書類の開示義務があります。実際には少ないと思われますが、理論上は買掛金のある仕入先から決算書の開示を求められた場合は応じる必要があります。

・利益の分配に関しての対立が生じやすい

 共同で事業を行い、配当もする場合はなかなか難しい問題になってくるかもしれません。当然社員が1人の場合や、配当をしない場合は関係ありません。

・株式を公開できない

 当然株式公開はできません。まあ、株式がないですし。株式会社に組織変更すれば可能です。

4.合同会社の設立が向いている場合


…以上より、現時点で合同会社をお勧めできるのは

・とにかく設立・運営のコストや手間を1円でも抑えたい

・配当比率を自由に決めたい

・法人には信用が無くても良い

など、比較的限られたケースとなります。ただし今後は資本金1円の株式会社や、大規模な合同会社が増えてきて、合同会社の認知度も上がってくるかもしれません。そもそも零細企業には株式会社より適切な形態だと思いますし、配当など株式会社とはまったく違ったメリットもありますので、将来的にはよりお勧めできる状況になってくるかもしれません。

起業家教室へ


会社設立の準備について


会社組織と個人組織の選択 (法人と個人どっちがいいの?)


会社設立後の届出書類について


会社設立後の主な業務について


GO TOP

-HOME-